
皆さんは、日々の業務に追われて「論文なんて読む暇ないよ!」と思っているかもしれません。
その気持ち、痛いほどよくわかります。僕自身も研修医時代は、目の前の業務をこなすだけで精一杯でした。
ですが、医学の世界には「これだけは知っておかないと恥ずかしい」という巨塔が存在します。
それが世界で最も権威ある4つの医学雑誌、通称「The BIG 4」です。
今日は、医学論文の入り口として、この4つのジャーナルの歴史や特徴、そしてなぜそれを読むべきなのかを解説します。
これを知っているだけで、カンファレンスでの景色が少し変わって見えるはずです。
内科専攻医あたりになってきたら、この辺りの論文は少しずつ触れるようになると、”出来る側”の医師になれるかもしれません。
なぜ「The BIG 4」を知る必要があるのか?
これら4つの雑誌に掲載される論文は、単なる研究報告ではありません。
「明日の医療の常識(ガイドライン)」を変えるパワーを持っています。
なので、医者である以上避けられない医学雑誌になるのです。
指導医が「最近のNEJMでは〜」と話している時に、「え、なんですかそれ?」となるのと、「ああ、あの試験ですね」となるのとでは、学びの深さが段違いです。
まずは敵(?)を知ることから始めましょう。
1. The New England Journal of Medicine (NEJM) ~臨床医学の最高峰にして絶対王者~
- 創刊: 1812年
- 国: アメリカ(マサチューセッツ医学会)
- Web: https://www.nejm.org/
歴史と特徴:なぜ「王者」なのか
言わずと知れた世界最高峰の医学雑誌です。
ちなみに僕は初期研修医の時期はこの雑誌の名前しか知りませんでした笑
1812年に創刊された、現存する世界最古の医学雑誌の一つです。
特筆すべきは、「イングルフィンガー・ルール」の発祥地であること。これは「他の雑誌やメディアで未発表の内容しか掲載しない」という、現代の医学論文投稿の基本ルールを作った雑誌でもあります。
Impact Factorは他を圧倒しており、NEJMに掲載された臨床試験の結果は、世界中の標準治療をその日のうちに書き換える力を持っています。
まさに医学界の司法最高裁のような存在です。
専攻医が読むべき理由:診断推論の道場
NEJMは単なる「雲の上の存在」ではありません。
実は最も勉強になるコンテンツが揃っています。
世界で最も有名なCPC記録です(皆さんの病院でもやっているアレの世界最高峰です)。
ただ正解を当てるのではなく、「専門医がどのような思考プロセスで鑑別疾患を絞り込んでいくか」という臨床推論の過程が克明に記されています。
これを毎週読むだけで、診断力は飛躍的に向上します。
一発診断系の画像クイズです。
スマホでサクッと見られるので、当直の空き時間やエレベーター待ちの時間に最適です。
「よくある疾患」についての、第一人者による実践的なレビューです。
ガイドラインには書かれていないような「臨床のコツ」や「意思決定の迷いどころ」にまで言及されており、教科書以上に役立ちます。
2. The Lancet ~鋭い批判精神を持つ英国の古豪~
- 創刊: 1823年
- 国: イギリス
- Web: https://www.thelancet.com/
歴史と特徴:改革者の魂
NEJMの最大のライバルであり、イギリスを代表する医学雑誌です。
「メス(Lancet)」という名前の通り、鋭く社会に切り込む姿勢が特徴です。
個人的に2大巨頭だとLancetの方か好きです。
創刊者トーマス・ウェイクリーは、当時の腐敗した医学界や身内びいきの人事を痛烈に批判するためにこの雑誌を作りました。
その「反骨精神」は今も健在です。
NEJMが純粋な医学・科学的エビデンスを重視するのに対し、Lancetは政治、貧困、気候変動、戦争などが健康に及ぼす影響など、「社会医学・公衆衛生」にも強い関心を持っています。
また、論文審査から掲載までのスピードが非常に速いことでも知られ、パンデミック時などの緊急性の高い情報はLancetから最初に出ることが多いです。
専攻医が読むべき理由:視野を広げるセミナー
各専門分野(Oncology, Neurologyなど)の姉妹紙も非常に強力です。
将来専攻した分野にもLnacetの姉妹紙があるかも?
Lancetの「Seminar」と題されたレビュー記事は、特定の疾患について病態生理から最新の治療までを網羅しており、「最高の教科書」としての定評があります。
専門医試験の勉強などで、ある疾患を深く理解したい時は、LancetのSeminarを探すのが鉄板です。
日本やアメリカの医療だけでなく、開発途上国の感染症や医療システムにも触れられています。
「医師として世界とどう関わるか」という視座を与えてくれる貴重な媒体です。
3. JAMA (The Journal of the American Medical Association) ~統計の鬼門 × 世界一のデザイン性~
- 創刊: 1883年
- 国: アメリカ(米国医師会)
- Web: https://jamanetwork.com/journals/jama
歴史と特徴:統計への異常なこだわり
米国医師会(AMA)の機関誌であり、世界で最も広く読まれている雑誌です。
個人的にThe BIG 4で一番好きなJournalです。
JAMAの特徴は、なんといっても「デザインの美しさと読みやすさ」です。これが好きな理由でもあります笑
また、 JAMAを語る上で外せないのが、「統計学的厳密さ」です。
専門の統計レビュアーによる審査は非常に厳しく、生半可な解析では掲載されません。そのため、JAMAの論文はデータの信頼性が極めて高いと評価されています。
一方で、「Visual Abstract」を積極的に導入するなど、デザインが洗練されており、忙しい臨床医が直感的に内容を理解できるよう工夫されているのも大きな特徴です。
専攻医が読むべき理由:身体診察とEBMの架け橋
「Clinical Review & Education」のコーナーが秀逸です。
また「統計のメッカ」とも言えるJAMAが発行している「Guide to Statistics and Methods」というシリーズ記事もあり、医学統計を学ぶ上でのバイブル的な存在です。
「論文を批判的に読む」力をつけたい研修医は、JAMAから学ぶのが近道です。
これは必読のシリーズです。
「身体所見の感度・特異度」をメタ解析したもので、「この診察手技には本当に意味があるのか?」「尤度比はどれくらいか?」を科学的に教えてくれます。
身体診察に自信を持ちたいなら、このシリーズを読み漁りましょう。
心電図や皮膚所見などのクイズ形式の記事です。
解説が非常にコンパクトで教育的です。
患者さん向けに疾患を解説したページです。
専門用語を使わずに病気を説明する「言い回し」の宝庫であり、インフォームド・コンセントの練習に最適です。
4. The BMJ (British Medical Journal) ~臨床家のための、ユーモアと教育の宝庫~
- 創刊: 1840年
- 国: イギリス(英国医師会)
- Web: https://www.bmj.com/
歴史と特徴:透明性とユーモア
英国医師会が発行する雑誌ですが、権威主義的ではなく、非常に「臨床現場」を大切にする雑誌です。
BMJは、臨床研究の「透明性」を強く推進しており、臨床試験登録やデータ公開の義務化などをリードしてきました。
また、毎年恒例の「クリスマス号(Christmas Issue)」は有名です。
「チョコレート消費量とノーベル賞受賞者数の相関」や「男性のおバカな行動による死亡率」など、真面目な科学的手法を用いてジョークのような研究を行う、英国流のユーモアが溢れています。
医学を楽しみながら学ぶ姿勢を教えてくれます。
専攻医が読むべき理由:かゆい所に手が届く
「論文なんて難しくて読めない」と思っている人は、まずBMJの教育系記事や、ユニークな記事から入ると、医学論文へのアレルギーがなくなるかもしれません。
「最新の研究結果」よりも「日常診療の疑問」に答えることに重きを置いています。
「ガイドラインにはこうあるが、実際はどうすべきか?」といった、臨床現場のリアルな悩みに寄り添う記事が多いです。
教育的なケースレポートや画像クイズが豊富です。
特にジェネラリスト志向の強い人や、総合診療を目指す方にとっては、BMJの視点は非常に相性が良いはずです。
掲載された論文に対する読者からのコメント(電子レター)が活発です。
「この論文のここがおかしい」「私の経験では違う」といった議論をリアルタイムで見ることができ、批判的吟味のトレーニングになります。
まとめ:まずは「目次」を見ることから
いかがでしたか?
- 診断推論や世界標準を知りたいなら NEJM
- 疾患の深い理解や社会派の視点なら Lancet
- 身体診察の根拠や統計の勉強なら JAMA
- 日常診療の疑問解決やユーモアなら BMJ
それぞれのキャラクターを知ると、少し親近感が湧いてきませんか?
いきなり全部を精読する必要はありません。
自分の興味や、今のローテート科に合わせて、まずは一つお気に入りの雑誌を見つけてみてください。
そして、「目次(Table of Contents)を眺める」ことから始めてみましょう。
「論文を読む」という行為が、苦行から発見(Eureka!)に変わるはずです。
それでは、また。
